ネタバレで感想。
少女たちは何を見、何を思ったか
で終始すると思うなよ。
彼女たちを戦線に導いた教官の思い、戦線の男たちの感覚や考え、狙撃手と他の兵士のそれぞれへの感じ方、赤軍から見たドイツ軍、ドイツ軍から見たソ連、男性と女性の立場や境遇、平和があっという間に奪われる様…
究極は
『敵』とは何か
自らが『敵』と思っていたもの、『正義』『悪』と思っていたもの、それらは本当に揺るがないものなのか。
セラフィマたちに葛藤をもたらすものは、彼女たちに降りかかった歪んだ世界の表すものであり、歪んだ考え・感覚を戦争に与えられなければ持たなくて済んだ葛藤ではないか。
それが感じられるから、ますます読んでいて苦しい。
特に終盤はそれを強く感じもがきながら読んでいた。
セラフィマにとっての『敵』たると思っていたもの、それが一番身近にあった。
恐ろしかった。
恐ろしいながらあり得る話だとも思った。
だから苦しい。
そこに持っていく作品の力に驚いた。
序盤から引き込まれて読んでいて「これはすごい作品だぞ」と思っていたが、それでも終盤にこんな展開で打ちのめされようとは思わなかった。
もっと物理的な攻撃的の被害による悲しみが描かれると甘い考えで読んでいたから殴られた。
戦争で顕になる人間の醜さを描く作品は他にもあると思うが、『唯一、女性兵士がいた国』での女性が戦線で見てきた男たちの現実を描いているのは、特殊なようでいて本質には普遍性があって、怖いなと思った。
こんな異常事態は、あってはならないのだ。
戦争は、人々を狂わすのだ。
これを強烈に感じる1冊だった。