今回は上橋菜穂子『守り人外伝 風と行く者』、及び『守り人シリーズ』をちょっと語ります。語ろうとするときりがないので、外伝の周辺に焦点を当てて語ります。
ネタバレは控えめです。ぜひとも読んでいただきたいので。
まずは『守り人シリーズ』について。
以前の投稿でも書いた通り、私は『精霊の守り人』に始まる『守り人シリーズ』を長く愛読しています。
本シリーズの大まかな紹介をすると、女用心棒バルサと皇子チャグムを軸に、人の世界と精霊の世界の交わりによる災いや、民族や国による陰謀・抗争の中で人々が生き抜こうとする姿を描いています。
先日読んだのは、シリーズ最新巻
『守り人外伝 風と行く者』
しばらくぶりのシリーズ長編作です。
今回はバルサの新しい護衛の旅から始まります。今回の護衛対象は『サダン・タラム〈風の楽人〉』。かつてバルサが養父ジグロと護衛した彼らとの再会が、大きな物語の歯車を動かしていきます。
では今作の感想です。
正直、本編終了から10年以上経ってなお、こんなに濃厚で手ごわい作品を『外伝』扱いで世に届けるとは恐ろしいな、と思いました。
今回は『バルサが新しい旅を通して、ジグロと旅した20年前の記憶と現在を交叉させる物語』くらいに思っていたのですが、そんな範囲に留まらない壮大な内容でした! 伏線に次ぐ伏線により、読み進めるほど謎は深まるばかりで、「これはどうなっているのか、どうなるのか」と気になって最後まで読んでしまうのです。
そして、この1冊に『守り人シリーズ』の旨味が凝縮されているなと思いました。だからこそ、それまでの巻を読んでから読んでほしい。シリーズ全体の大きな流れを体感してから読んでこそ『旨味の凝縮』と感じられるはずです。
また今作では『13巻目にして、こんな設定をぶっこんでくるのか!?』と驚愕させられました。前巻『守り人作品集 炎路を行く者
』の「十五の我には」まで、バルサとジグロの歩みを読んだからこその衝撃です。
さらに、今作は特に、1冊の中で時系列や人々の関係が複雑に絡み合っているので、紙書籍で読むことを大いにおすすめします。私も途中途中で何度もページを戻りました。大変でした! しかしわくわくした気持ちが伴うので苦ではないのです。
今作を読むにあたっては、「シリーズを刊行順にすべてお読みいただければ」と言わざるを得ません。『外伝』に位置づけられるゆえんです。
まずは『精霊の守り人』から読んでみてください。私も10冊全部読むことになるとは思わないで『精霊の守り人』を手に取りましたが、ページ捲りが止まらなくなり、気づいたら本編最終巻でした。
また、本編を読んでひといきついたら、短編集・短編「春の光」(完全ガイド『「守り人」のすべて』)・作品集・外伝と、ゆっくり味わっていただければと。
ちなみにシリーズ本編では、実写化されなかった『夢の守り人』が私のいちばん好きなエピソードです。3巻目なのでまだ手が届きやすいのではないかと。
今回私は、外伝を発売直後に偶然買って以来、じっくり読む頃合いをはかってしばらく温めていました。やっとのことで読んでみると、そうして良かったと思いました。
守り人の世界に没入させられる心地よさに十分に浸れたからです。世界観も相まって、水底に引き寄せられるように。
そして今、私もあなたを『守り人の世界』に引き摺り込もうと企んでいます。
本稿あとがき
外伝の感想を書くにあたり、シリーズ完全ガイドと作品集『炎路を行く者』を引っ張り出してきました。派生作品を確認した上で語るだけでも大変なのに、思い入れの強い作品ゆえに、作品を伝えるための言葉選びに慎重になり、とっても骨が折れました。
それでも、この外伝がシリーズの醍醐味をあまりにも網羅していたので、外伝のみの感想文に留めないことにしました。
少しでも世界観を感じていただければと思います。